肺血栓塞栓症フォーラム in 名古屋(ランチョンセミナー 5-1)

最近の地震災害における深部静脈血栓症・肺塞栓症(DVT・PE)の現状
榛沢和彦
新潟大学大学院呼吸循環外科
 日本は地震大国であり,有感地震の 1/3 が日本で起きているという報告もある.震災による健康被害は阪神大震災まではDMATが活躍する震災直後のクラッシュシンドロームに代表される外傷等であった.その後起きた新潟県中越地震では車中泊避難生活によるPEで死亡者が発生し,避難生活による健康被害がクローズアップされるようになった.地震直後の被災者は逃げることで精一杯で下肢打撲などの外傷が多く(血管損傷の原因),また避難所に到着すると安心できるが食料・飲料水,トイレなどに困る(脱水の原因).さらに避難所では窮屈な雑魚寝状態で隣り合った被災者とぶつからないように,トイレに行く人に踏まれないように縮こまって寝るしかなく,眠れない日々が続いて疲労が蓄積し将来の生活不安も重なって動こうという気持ちもなくなる(血液停滞).このように避難所では下肢の外傷,脱水,就眠環境,ストレスなどによりDVTの危険性が高い.新潟県中越地震の車中泊による肺塞栓症はマスコミで取り上げられ震災後の車中泊避難の危険性は認知されているが,避難所生活におけるDVTの危険性は十分に認知されていない.新潟県中越地震後に発生した能登半島地震,中越沖地震,岩手・宮城内陸地震では車中泊避難者は少なく,震災後のPEによる死亡は無かったが,震災 1 週間後のDVT頻度は能登半島地震6.3%,新潟県中越沖地震6.9%,岩手・宮城内陸地震7.1%であり,これらは新潟県と調査した新潟県中越地震対照地のDVT頻度1.8%よりも有意に高い.したがって現在の避難所環境では震災後に約 6~7%のDVT発生の危険があることになる.首都圏直下型地震や東南海地震などの広域大規模震災における被災者は100万人以上と推定されることから震災後のDVT発生は数万人以上となる危険性がある.震災後のDVTはPEの原因になるだけでなく,遷延して慢性期に若年性脳梗塞や高齢者の呼吸不全の原因になることが判明している.したがって早急に国の防災計画の中に震災後のDVT予防対策を盛り込むべきであり,さらに避難所の簡易ベッド使用を考慮すべきである.なぜなら日本よりもDVT/PEが多いはずの欧米で震災後にDVT/PEが問題になったことはないが,欧米の避難所では簡易ベッド使用が基本となっている.これは1940年のロンドン大空襲時に地下鉄構内に雑魚寝の避難生活をしたことでPEを含む複数の疾患が多く発生し簡易ベッド使用で減少したことの教訓とも考えられ,日本でも避難所における簡易ベッド使用を早急に検討すべきである.
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